ら》わたくしにお申含めになったについては、少々訳がらもございます。それは太閤さまが心血をそそがれました新玉集《しんぎょくしゅう》と申す連歌《れんが》の撰集《せんしゅう》二十巻が、このお文倉に納めてありまして、わたくしもその御纂輯《ごさんしゅう》の折ふしには、お紙折りの手伝いなどさせて頂いたものでございます。ゆくゆくは奏覧にも供え、また二条摂政さま(良基《よしもと》)の莵玖波《つくば》集の後を承《う》けて勅撰《ちょくせん》の御沙汰《ごさた》も拝したいものと私《ひそ》かに思定《おもいさだ》めておいでの模様で、いたくこの集のことをお心に掛けてございました。尤《もっと》もこれは、なまじえせ連歌など弄《もてあそ》ぶわたくしの思い過しもございましょう。お文倉には和漢の稀籍群書およそ七百余合、巻かずにして三万五千余巻が納めてありましたとのことで、中には月輪《つきのわ》殿(九条|兼実《かねざね》)の玉葉《ぎょくよう》八合、光明峯寺殿(同|道家《みちいえ》)の玉蘂《ぎょくずい》七合などをはじめ、お家|累代《るいだい》の御記録の類も数少いことではございませんでした。
 そうこう致すうち一月の末には、太閤は
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