らたとえ月世界へ抛り出されたところで、即座にビールでも女でも見つけだして差上げるぜ! そうだ、これから一っ走り行って見つけて来よう。……もし見つからなかったら、僕を卑劣漢とでもなんとでも呼び給えだ!」
 彼はぐずぐずと長いことかかって服をつけ、大きな長靴をやっとこさで穿いてから、黙々として巻煙草を一本すい終ってから、ようやく出て行った。
「ラッベク、グラッベク、ロァッベクか。」彼は玄関で立停りながらぼやきはじめた。「一人で行くのはつまらんなあ、畜生め。リャボーヴィチ、君ひとつプロムナージュ〔[#割り注]プロムナード(散歩)の覚え違え[#割り注終わり]〕を試みないかい? ええ?」
 返事がなかったので、彼は引返して来て、ぐずぐずしながら服を脱いで、寝床に横になった。メルズリャコーフは溜息をつくと、『ヨーロッパ通報』を傍へ押しやって、蝋燭を吹き消した。「ふむ、そうか?……」とロブィトコは暗闇の中で巻煙草を喫いつけながら呟いた。
 リャボーヴィチは頭からすっぽり毛布を引っかぶって、からだを蝦《えび》みたいに丸めると、想像の中で例のちらちらする幻を拾いあつめて、一つの完全な姿にまとめ上げようと
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