れはなかなか立派な人物で、その発する一言はぴたりと的にあたるものがあったのである。だから一同は、よろこんでその声に耳をかたむけた。
「僕はこう思うな」と彼はつづけた、――「もちろんクリスマス物語には一定のワクはあるにしてもそのワクの中で色々と趣向を変えることが出来るはずだし、その時代なり時の風俗だのを反映させて、興味津々たる多彩多様さを発揮できもするはずだとね。」
「だが、君はその意見を、いったい何をもって実証するつもりかね? なるほどと思わせるためには、君自身ひとつ、ロシヤ社会の現代生活のなかから、そんな事件をとり出して見せてくれるべきだね。時代とか現代人とかいうものも立派に反映しており、しかもそれなりにクリスマス物語の形式にも註文にもあてはまって、――つまりちょいとファンタスティクでもあり、なんらかの迷信の打破にも役だつものであり、おまけにめそめそしたのじゃない、明るい結末のついたものでもある、――そんな奴をね。」
「おやすい御用さ。お望みとあらば、そんな話を一つお目にかけてもいいがね。」
「そいつは是非たのむぜ! ただね、これだけは一つ、しっかり願いたいんだが、その話というのは、
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