言います。――『それでお前は、下世話にいう「奥方さま」だ、――わしなんぞに土下座するなんて法はないわい。』
 ――でもあたし、ほんとに嬉しくって……さぞ姉さんたちが!……』
 ――まあいい、まあいい。わしも嬉しいぞ!……どうだな、やっと分ったろう、真珠の首飾りなんか怖くもおそろしくもないことが。そうさ、わしはお前に秘密を明かそうと、わざわざやって来たのだったな。それは他でもない、わしがお前に贈物にした似せの真珠[#「似せの真珠」に傍点]は、わしがずっと以前、心をゆるした親友に一杯くわされた代物なのだよ、……何しろその来歴というのがな、――畏《かし》こしとも畏こし、帝室の御物《ぎょぶつ》と唐室の御物とを、一つにつなぎ合わせた稀代の逸品という触れこみなのさ。それに引きかえ、お前さんのご亭主は、この通りの無骨な男じゃあるが、こういう男に一杯くわせるなんていうことは、とても出来ることじゃない、人間のたましいが、だいいち承知をせんわい!』」
「僕の話というのは、これでおしまいだよ」と、語り手は物語をむすんだ、――「いかがです、お聞きの通りの現代の出来事ではあり、嘘いつわりのない実話でもあるんだが
前へ 次へ
全41ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング