ろか、なまじ御報告を一寸《ちょっと》のばしに延ばせば延ばすほど、却《かえ》つてますます御不安をつのらせるだけらしいことが、千恵にもよくよく呑《の》みこめました。三晩もかさねて、不吉な夢をごらんになつたのですね。それがどんな中身の夢だつたのか、お手紙には書いてありませんが、前後のお言葉から大よその察しのつかないものでもありません。そんな悪夢をまでごらんになるやうな母上を前にしては、千恵はもはや空しい希望を捨てなければなりません。それに、母上のあのお手紙をいただいたその明くる日――つまり昨日、まるで申し合はせでもしたやうに千恵がこの目で[#「この目で」に傍点]あのやうなことを見てしまつた今となつては、もう何もかも有りのままに申しあげて、あとは宏大な摂理の御手に一切をおゆだねするほかないことを感じます。
………………………………………
ですが千恵のたどたどしい筆では、昨日見たことはもとよりのこと、姉上の身におこつた変りやうの一々を、ただしくお伝へする自信はとてもありません。ほんたうなら、たとへ二日でも三日でも休暇をとつて、人なみの帰省をし、ひと晩ゆつくり口づてから母上にお話しするのが
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