人だことねえ。さだめし女の子が、夢中になって惚《ほ》れこむだろうさ。ブルルル! (行きかける)才子とか才物とかいった手合いは、みんなこうしたお馬鹿《ばか》さんばかりさ。話相手なんか誰もいやしない。……しょっちゅう独り、独りぼっち、わたしにゃ誰もいないのさ……そういう私が何者か、なんで生れてきたのか、それもわかったものじゃない……(ゆっくり退場)
エピホードフ つまり結局ですな、ほかの問題はさておいて、自分一個のことに関するかぎり、ともあれ僕はつぎのごとく言わざるを得んのですよ――運命が僕を遇することの無慈悲残忍なる、あらしが小舟をもてあそぶに異ならん、とね。かりに一歩をゆずって、この僕の考えが間違っているとすれば、では一体なぜ、今朝ぼくが目をさましてみると、まあ一例として言えばですな、おっそろしく大きな蜘蛛《くも》が、僕の胸のうえに乗っかっていたんでしょう。……こんなやつがね(両手で示す)。同様にして、クワスでノドをうるおそうと思って手にとると、またしても、いやはや、たとえば油虫といったたぐいの、極度に無礼千万なやつがはいっている。(間)あんたはバックル([#ここから割り注]訳注 十九
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