ホードフが花束をもって登場。背広を着こみ、ひどくギュウギュウ鳴る、ピカピカに磨《みが》きあげた長靴をはいている。はいってきながら花束を落す。
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エピホードフ (花束をひろう)これを庭男がとどけてよこしました。食堂に挿《さ》すようにってね。(ドゥニャーシャに花束をわたす)
ロパーヒン ついでにクワスをおれに持ってきとくれ。
ドゥニャーシャ かしこまりました。(退場)
エピホードフ 今ちょうど明け方の冷えで、零下三度の寒さですが、桜の花は満開ですよ。どうも感服しませんなあ、わが国の気候は。(ため息)どうもねえ。わが国の気候は、汐《しお》どきにぴたりとは行きませんですな。ところでロパーヒンさん、事のついでに一言申し添えますが、じつは一昨日《いっさくじつ》、長靴を新調したところが、いや正真正銘のはなし、そいつがやけにギュウギュウ鳴りましてな、どうもこうもなりません。何を塗ったもんでしょうかな?
ロパーヒン やめてくれ。もうたくさんだ。
エピホードフ 毎日なにかしら、わたしには不仕合せが起るんです。しかし愚痴は言いません。馴
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