ですよ、もういいですよ……
ラネーフスカヤ (静かに泣く)あの子は死んだ、溺《おぼ》れてしまった。……なぜなの? なぜでしょう、あなた? (声をひそめて)あすこでアーニャが寝ているのに、わたし大きな声して……うるさいわね。……まあ、どうなすったの、ペーチャ? どうしてそんなに風采《ふうさい》が落ちたの? なんだってそう老《ふ》けなすったの?
トロフィーモフ 汽車のなかでも、どっかの百姓|婆《ばあ》さんに、“ねえ、禿《は》げの旦那《だんな》”って言われました。
ラネーフスカヤ あなたはあのころ、まるで子供で、可愛い学生だったわ。それが今じゃ、髪の毛も濃くはないし、眼鏡まで。ほんとに、今でも大学生なの? (ドアのほうへ行く)
トロフィーモフ きっと僕は、万年大学生でしょうよ。
ラネーフスカヤ (兄に、それからワーリャにキスする)さあ、行っておやすみなさい。……あなたも老けたわねえ、レオニード。
ピーシチク (夫人のあとにつづく)では、これでおねんねか。……ええ、この足痛風めが。今日は泊めていただきますよ。……とにかくわしは、ねえ奥さん、あすの朝にゃ……二百四十ルーブリというものが……
ガー
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