したっけ。庭もこの通りだった、そっくりそのまま。(嬉しさのあまり笑う)真っ白、一めんに真っ白ね! ああ、わたしの庭! 暗い、うっとうしい秋や、寒い冬を越して、またお前は若々しく、幸福で一ぱいだわ。天使たちが、お前を見すてなかったのね。……ああ、わたしの胸や肩から、この重石《おもし》がとりのけられたら! わたしの過去を、きれいに忘れることができたら!
ガーエフ そう、だがこの庭も、借金のカタに売られてしまう。妙な話だが、仕方がない……
ラネーフスカヤ あら、ご覧なさい、亡《な》くなったお母さまが、庭を歩いてらっしゃるわ……白い服を召して! (嬉しさのあまり笑う)たしかにそうだわ。
ガーエフ どれ、どこに?
ワーリャ しっかりなすって、お母さん。
ラネーフスカヤ 誰もいない、気のせいだったわ。右手の、あずまやへ行く曲り角に、白い若木の垂れているのが、女の影に似てたんだわ……

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トロフィーモフ登場。着ふるした学生服をきて、眼鏡をかけている。
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ラネーフスカヤ ほんとにすばらしい庭! 花が真っ白にか
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