あって、甘味があって、よい香りでしたよ。……あの頃は、こさえ方を知っていたのでな……
ラネーフスカヤ そのこさえ方が、今どうなったの?
フィールス 忘れちまいましたので。誰《だれ》も覚えちゃおりません。
ピーシチク (ラネーフスカヤ夫人に)パリはいかがでした? ええ? 蛙《かえる》をあがりましたか?
ラネーフスカヤ ワニを食べましたよ。
ピーシチク こりゃ、どうだ……
ロパーヒン 今まで田舎といえば、地主と百姓しかいませんでしたが、今日《こんにち》では別荘人種というものが現われています。どんな町でも、どんな小っぽけな町でも、ぐるり一めん別荘が建っています。このぶんでいくと、二十年もしたら、別荘人種はどえらい数になるでしょう。今でこそあの連中は、バルコンでお茶を飲むのがせいぜいですが、あに図らんややがては、あの連中もめいめい三千坪の地面で、農作をはじめるかも知れない。そのあかつきには、お宅の桜の園も、豪勢な、ゆたかな、地上の天国になるでしょう。
ガーエフ (憤慨して)じつにくだらん!

[#ここから2字下げ]
ワーリャ、ヤーシャ登場。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、
前へ 次へ
全125ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング