套《がいとう》をきて外からはいってくる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
トロフィーモフ そろそろ出かける時間らしいな。馬車も来ている。だが癪《しゃく》だな、僕《ぼく》のオーバーシューズはどこなんだ。消えてなくなっちまったよ。(ドアの口へ)アーニャ、ぼくのオーバーシューズがないんです! 見つからないんです!
ロパーヒン わたしは、ハリコフへ行かなければならん。君たちと同じ汽車にするよ。ハリコフで、この一冬こすのさ。わたしはだいぶ長いこと、おつきあいでぶらぶらしていて、仕事にならんで閉口したよ。働かずにゃいられない性分でね、第一この両手の始末にこまるんだ。なんだか妙にこうブランブランして、まるで他人の手みたいだ。
トロフィーモフ おっつけ、みんな行っちまいますよ。そこでまた有益な事業とやらに、着手なさるがいいさ。
ロパーヒン どう、一杯やらないかね。
トロフィーモフ いや、結構。
ロパーヒン じゃ、こんどはモスクワかね?
トロフィーモフ そう、皆さんを町まで送って行って、あしたはモスクワだ。
ロパーヒン なるほど。……まあいいさ、大学の先生はみん
前へ 次へ
全125ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング