はエピホードフが、箱に縄《なわ》をかけている。舞台裏手で、がやがやいう声。百姓たちが、お別れに来ているのだ。ガーエフの声で、
「いやありがとう、みんな、どうもありがとう」
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ヤーシャ 下じもの連中が、お別れにやって来た。わたしはね、こういう意見なんですが、ロパーヒンさん、民衆は善良だけれど、どうも物わかりが悪いとね。

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騒ぎが静まる。次の間を通って、ラネーフスカヤとガーエフが登場。彼女は泣いてはいないが、真《ま》っ蒼《さお》で、顔がぴくぴくふるえて、口が利《き》けない。
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ガーエフ お前はあの連中に、財布をやっちまったね、リューバ。それじゃいかん! それじゃいかんよ!
ラネーフスカヤ わたし駄目《だめ》なの! わたし駄目なんだもの!

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ふたり退場。
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ロパーヒン (ドアの口から、ふたりの後ろへ)どうぞこちらへ、お願いします! 
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