も、わたくしどもヴァーシチカと二人のように暮させて差し上げたいものですわ」
 プストヴァーロフがモギリョフ県へ材木の仕入れに出掛けると、彼女はひどく淋《さび》しがって、来る夜も来る夜も眠らずに泣いていた。ときどき宵の口に、彼女のところへ連隊づきの獣医でスミールニンという、彼女の屋敷の離れを借りている若い男がやって来た。彼が何かと世間話をしてくれたり、カルタの相手になってくれたりするので、彼女の気もまぎれるのだった。なかでもとりわけ面白かったのは、彼自身の家庭生活の思い出ばなしだった。彼には細君もあり息子もあったのだが、細君が不行跡を働いたので夫婦わかれをして、現ざい彼はもとの細君を憎み抜いていながら、月々息子の養育費として四十ルーブルの仕送りをしていた。といった身の上話に聴き入りながら、オーレンカはほっと溜息《ためいき》をして頭をふり、この男をしみじみ気の毒に思うのだった。
「では、くれぐれもお大事にね」と彼女は、暇《いとま》を告げる彼を見送って蝋燭《ろうそく》を手に階段のところまで出ながら言うのだった。「有難うございました、おかげさまで淋しさがまぎれましたわ。ご機嫌よろしゅう、おやす
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