て目だった特徴もなく、ただ温室の床《とこ》の裸地を隠すために植えてあったのでした。彼女は自分のからだを大きなしゅろの根元へ巻きつけて、その言葉に耳を澄ましておりましたが、なるほどアッタレーアのいう通りだと思いました。自分としてはべつに熱帯の大自然を知っているわけではないのですが、やっぱり大気と自由は好きだったのです。温室は彼女にとっても、やはり牢屋《ひとや》でありました。『私みたいなつまらないしなびた草でさえ、自分の育ったあの灰色の空や、青ざめた太陽や、冷たい雨にあえないのが、こんなにもつらいんだもの。この見事な威勢のいい木にしてみれば、とらわれの境涯がどんなにか切ないことでしょう!』そう彼女は考えて、しゅろの幹にやさしくまつわりついて甘えるのでした。『なぜ私は大木に生まれつかなかったのだろう? 大木に生まれてさえいたら、この人の忠告どおりにしたろうに。私たちは手に手をとってぐんぐん伸びて、一緒に自由の天地へ乗り出せただろうに。そうなったらほかの連中だっても、なるほどアッタレーアの言う通りだったと、思い当たるに違いないわ。』
 けれど彼女は大木ではなくて、ほんの小っぽけなしなびた草であ
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