くり見て頂戴な、とっくりとね。これがあたしの|若い鷹《いいひと》なのよ、どう、いい男振りでしょ!」
カテリーナ・リヴォーヴナは大声で笑いだすと、良人の目の前でセルゲイに熱い接吻をあたえた。
とその瞬間、彼女の頬っぺたにがあんと一発、横びんたが飛んだかと思うと、ジノーヴィー・ボリースィチはあけっぱなしの小窓めがけて突進した。
※[#ローマ数字8、1−13−28]
「おやまあ、おいでなすったわね!……ところがどっこい、そうは行きませんてことさ。どうせそんなことだろうと思ってたよ!」と、カテリーナ・リヴォーヴナは金切り声をたてた。――「さあ、こうなったらもう山は見えたわ……お互い、泣こうが笑おうが……」
ぱっと一振り、彼女はセルゲイを突きのけると、すばやく良人に追いすがって、ジノーヴィー・ボリースィチが窓へ跳びあがるその前に、うしろからその喉もとへ自分のほっそりした指をからませたかと思うと、忽ち相手のからだを、しめった麻束よろしくの体《てい》で、床べたへ引っくり返した。
どさりと地ひびきを立てて倒れる拍子に、うしろ頭をいやっとこさ床にぶつけたジノーヴィー・ボリースィチ
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