クシニューシカ、妙なことがあればあるもんだよ」と、彼女は手ずから小皿を茶ぶきんで拭き清めながら、おさんどんにそれとなく鎌をかけてみた。
「なんですかね、おかみさん?」
「それがね、どうやら夢らしくもないんだけどね、とにかくこうありありと、どこかの猫が一匹、あたしの寝床へちゃんともぐりこんで来たのさ。」
「あら嫌ですよ、おかみさん、まさか?」
「ほんとにさ、猫がもぐりこんで来たんだよ。」
 そう言ってカテリーナ・リヴォーヴナは、その猫のもぐり込んでいた次第を話して聞かせた。
「でもおかみさん、なんだってそんな猫なんぞを、可愛がってやんなすったんですね?」
「うん、つまり、そのことさ! どうして撫でてやる気になったものか、われながら合点がいかないんだよ。」
「妙ですねえ、ほんとに!」と、おさんどんは感嘆した。
「当のあたしだって、考えれば考えるほど不思議でならないんだよ。」
「てっきりそりゃあ、誰かがこう、そのうちひょっくりやって来るというお告げか、さもなけりゃ、何か思いがけないことでもある、という前兆かもしれませんねえ。」
「って言うと、つまり何だろうね?」
「さあ、つまり[#「つまり」
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