とカテリーナ・リヴォーヴナはつまずきながら、しかも足もとを見やりもせずに、ただもう思案にふけるのだった。
 だがこっちから先に折れて出るのは、今となってはせんだってより以上に、自尊心がゆるさない。そうこうするうちに、セルゲイのソネートカに対するじゃらつきようは益※[#二の字点、1−2−22]執拗になって、もはや衆目のみるところ、ウナギのようにぬらりくらりするばかりで手に入らない難攻不落のソネートカも、とみに軟化の色を見せはじめた。
「ねえ、お前さんいつぞやあたしのことを怨んだっけが」と、フィオーナがカテリーナ・リヴォーヴナに言った。――「一たいなんの悪い事をあたしがしたかね? あたしのことなんか、あれっきりもうさばさばしたもんだけど、今度のソネートカにゃ油断しないがいいよ。」
『くだらない自尊心なんか鬼に食われちまえ。今日こそ是が非でも仲直りしなけりゃあ』とカテリーナ・リヴォーヴナは決心して、なんとか巧い仲直りのきっかけはないものだろうかと、そればかり思いつめるのだった。
 この難局から救いだしてくれたのは、意外にもセルゲイその人だった。
「イリヴォーヴナ!」と、彼は小休止のとき彼女を
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