マイロヴァも、まさしくそうした人物の一人だ。これは、いつぞや怖るべき惨劇をもちあげて、それからこっち土地の貴族連中から、誰やらの減らず口をそのままに、ムツェンスク郡のマクベス夫人[#「ムツェンスク郡のマクベス夫人」に傍点]と呼びならわされている女である。
カテリーナ・リヴォーヴナは、いわゆる美人じゃなかったけれど、見た目の感じのじつにいい女だった。まだ二十四の誕生日には手のとどかぬ年頃で、小柄ながらもすらりと伸びのいい、まるできれいに磨きあげた大理石のような頸すじをした、肩つきのむっちりとまあるい、胸のふくらみのきりりとしまった、薄手の鼻すじのよくとおった、黒い眼のくりくりした、抜け出るように色白な秀でた額《ひたい》つきをした、おまけにもう一つ、漆黒の――いやそれこそ翠《みどり》の黒髪とでも言いたいような髪の毛をした、――ざっとまあそうした女である。
クールスク県のトゥスカリという所から、この土地の商人イズマイロフのところへ貰われて来たのだったが、べつにこの男に惚れたわけでも、何かほかに見どころがあったわけでもなかった。ただイズマイロフが貰いたいと言うから、嫁に来たまでのことで、な
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