んざい》! 正義《せいぎ》萬歳《ばんざい》!』
『何《なに》を那樣《そんな》に喜《よろこ》ぶのか私《わたくし》には譯《わけ》が分《わか》りません。』と、院長《ゐんちやう》はイワン、デミトリチの樣子《やうす》が宛然《まるで》芝居《しばゐ》のやうだと思《おも》ひながら、又《また》其風《そのふう》が酷《ひど》く氣《き》に入《い》つて云《い》ふた。
『成程《なるほど》、時《とき》が來《く》れば監獄《かんごく》や、瘋癲病院《ふうてんびやうゐん》は廢《はい》されて、正義《せいぎ》は貴方《あなた》の有仰《おつしや》る通《とほ》り勝《かち》を占《し》めるでせう、然《しか》し生活《せいくわつ》の實際《じつさい》が其《そ》れで變《かは》るものではありません。自然《しぜん》の法則《はふそく》は依然《いぜん》として元《もと》の儘《まゝ》です、人々《ひと/″\》は猶且《やはり》今日《こんにち》の如《ごと》く病《や》み、老《お》い、死《し》するのでせう、甚麼立派《どんなりつぱ》な生活《せいくわつ》の曉《あかつき》が顯《あら》はれたとしても、畢竟《つまり》人間《にんげん》は棺桶《くわんをけ》に打込《うちこ》まれて、穴《あな》の中《なか》に投《とう》じられて了《しま》ふのです。』
『では來世《らいせい》は。』
『何《なに》、來世《らいせい》。戯談《じやうだん》を云《い》つちや可《い》けません。』
『貴方《あなた》は信《しん》じなさらんと見《み》えるが私《わたし》は信《しん》じてます。ドストエフスキイの中《うち》か、ウオルテルの中《うち》かに、小説中《せうせつちゆう》の人物《じんぶつ》が云《い》つてる事《こと》が有《あ》ります、若《も》し神《かみ》が無《な》かつたとしたら、其時《そのとき》は人《ひと》が神《かみ》を考《かんが》へ出《だ》さう。で、私《わたくし》は堅《かた》く信《しん》じてゐます。若《も》し來世《らいせい》が無《な》いと爲《し》たならば、其時《そのとき》は大《おほ》いなる人間《にんげん》の智慧《ちゑ》なるものが、早晩《さうばん》是《こ》れを發明《はつめい》しませう。』
『フヽム、旨《うま》く言《い》つた。』
と、アンドレイ、エヒミチは最《い》と滿足氣《まんぞくげ》に微笑《びせう》して。
『貴方《あなた》は然《さ》う信《しん》じてゐなさるから結構《けつこう》だ。然云《さうい》ふ信仰《しん
前へ
次へ
全99ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング