でも有《あ》りませんさ、なあ同僚《どうれう》。悲觀《ひくわん》ももう大抵《たいてい》になさるが可《い》いですぞ。』
『我々《われ/\》は未《ま》だ隱居《いんきよ》するには早《はや》いです。ハヽヽ左樣《さう》でせうドクトル、未《ま》だ隱居《いんきよ》するのには。』郵便局長《いうびんきよくちやう》は云《い》ふ。
『來年《らいねん》邊《あたり》はカフカズへ出掛《でか》けやうぢや有《あ》りませんか、乘馬《じようば》で以《もつ》てからに彼方此方《あちこち》を驅廻《かけまは》りませう。而《さう》してカフカズから歸《かへ》つたら、此度《こんど》は結婚《けつこん》の祝宴《しゆくえん》でも擧《あ》げるやうになりませう。』と片眼《かため》をパチ/\して。『是非《ぜひ》一つ君《きみ》を結婚《けつこん》させやう……ねえ、結婚《けつこん》を。』
アンドレイ、エヒミチはむかツと[#「むかツと」に傍点]して立上《たちあが》つた。
『失敬《しつけい》な!』と、一言《ひとこと》叫《さけ》ぶなりドクトルは窓《まど》の方《はう》に身《み》を退《よ》け。『全體《ぜんたい》貴方々《あなたがた》は這麼失敬《こんなしつけい》な事《こと》を言《い》つてゐて、自分《じぶん》では氣《き》が着《つ》かんのですか。』
柔《やはら》かに言《い》ふ意《つもり》で有《あ》つたが、意《い》に反《はん》して荒々《あら/\》しく拳《こぶし》をも固《かた》めて頭上《かしらのうへ》に振翳《ふりかざ》した。
『餘計《よけい》な世話《せわ》は燒《や》かんでも可《い》い。』益※[#二の字点、1−2−22]《ます/\》荒々《あら/\》しくなる。
『二人《ふたり》ながら歸《かへ》つて下《くだ》さい、さあ、出《で》て行《ゆ》きなさい。』
自分《じぶん》の聲《こゑ》では無《な》い聲《こゑ》で顫《ふる》へながら叫《さけ》ぶ。
ミハイル、アウエリヤヌヰチとハヾトフとは呆氣《あつけ》に取《と》られて瞶《みつ》めてゐた。
『二人《ふたり》とも、さあ出《で》てお行《い》でなさい。さあ。』アンドレイ、エヒミチは未《ま》だ叫《さけ》び續《つゞ》けてゐる。『鈍痴漢《とんちんかん》の、薄鈍《うすのろ》な奴等《やつら》、藥《くすり》も絲瓜《へちま》も有《あ》るものか、馬鹿《ばか》な、輕擧《かるはずみ》な!』ハヾトフと郵便局長《いうびんきよくちやう》とは、此《こ》
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