巾着《きんちゃく》をのぞいて)昨日はお金ずいぶん沢山あったのに、今日はからっきしないわ。ワーリャは可哀《かわい》そうに、なんとか切りつめようとして、わたしたちにはミルクのスープを出し、勝手もとじゃ年寄り連中にエンドウ豆ばかり食べさせてるというのに、わたしは何やら訳もわからない無駄《むだ》づかいをしている。……(巾着をとり落す。金貨がばらばらこぼれる)あら、こぼれちまった……(無念の思い入れ)
ヤーシャ ご免ください、ただ今ひろって差上げます。(金貨をひろう)
ラネーフスカヤ ご苦労さん、ヤーシャ。それにわたし、なんだってお午《ひる》なんか食べに行ったんだろう。……あなたご推奨のあのちゃちなレストラン。音楽つきだかなんだか知らないけれど、テーブル・クロスがシャボンくさかったわ。……おまけに、なぜあんなに沢山のむことがあるの、ええリョーニャ? なぜ、あんなにどっさり食べたり、しゃべり散らしたりすることがあるの? 今日もあのレストランで、あんたは散々またおしゃべりをして、それがみんな、とんちんかんだったじゃないの。七〇年代([#ここから割り注]訳注 一八七〇年代。ナロードニキー運動の全盛時代
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