見世物なんですわ! 昨日わたくしどもで『裏返しのファウスト』を出しましたら、どのボックスもほとんどがらあきでしたが、それがもしわたしたちヴァーニチカと二人で何か俗悪なものを出したとしたら、さだめし小屋は大入り満員だったに相違ないんですわ。明日はヴァーニチカと二人で『地獄のオルフェウス』を出しますの。いらしてちょうだいね」
というふうに、芝居や役者についてクーキンの吐いた意見を、彼女もそのまま受け売りするのだった。やはり良人と同様彼女も見物が芸術に対して冷淡だ、無学だといって軽蔑していたし、舞台稽古にくちばしを出す、役者のせりふまわしを直してやる、楽師れんの行状を取り締まるといった調子で、土地の新聞にうちの芝居の悪口が出たりしようものなら、彼女は涙をぽろぽろこぼして、その挙句《あげく》に新聞社へ掛け合いに行くのだった。
役者連中は彼女によくなついて、『ヴァーニチカと二人』だの『可愛い女《ひと》』だのと尊称を奉っていた。彼女の方でも彼らに目をかけてやって、少しずつならお金も貸し出したりしていたが、ひょっとして一杯ひっかけられるようなことがあっても、彼女は人知れずこっそり泣くだけで、良人に苦情をもちかけたりなんぞしなかった。
その冬も二人は楽しく暮した。町の劇場をその冬いっぱい借り切って、短い期限をきってウクライナ人の劇団や、奇術師や、土地の素人《しろうと》芝居に又貸しした。オーレンカはますます肥《ふと》って、頭から足の先まで満悦の色に照り輝いていたが、一方クーキンはますます瘠《やせ》せ細りますます黄色くなって、その冬はずっと事業がうまく行っていたくせに、えらい欠損だとこぼしてばかりいた。彼は夜中になるときまって咳《せき》が出たので、彼女は彼に木苺《きいちご》の汁や菩提樹《ぼだいじゅ》の花の絞り汁を飲ませたり、オーデコロンをすり込んでやったり、自分のふかふかしたショールでくるんでやったりした。
「あなたはまったく何て立派な人でしょうねえ!」と彼女は彼の髪をなでつけてやりながら、嘘いつわりない本心からそう言うのだった。「あなたはまったく何ていい人でしょうねえ!」
*大斎期に彼は一座を募集にモスクヴァへ旅立ったが、彼女は良人がいないと眠れないので、ずっと窓ぎわに坐りとおして星ばかり眺めていた。そんな時には彼女は自分の身を、鶏小屋に雄鶏《おんどり》がいないとやはり夜っぴ
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