六号記
岸田國士

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 どうにもならぬことを、ひとりぶつぶつ云つてもしようがない、と思ふやうになつてゐることは事実である。誰でも考へてゐるやうなことを、わざわざ口に出して云ふのは、野暮の骨頂だ、といふ風にも教へられてゐる。が、しかし、どうにもならないとは、一体、いつからきまつてしまつたのであらう? 当り前でないことが当り前で通るやうになつたのは、誰もが考へてゐるだけで、公然とそれを云はないからではないかと、私は近頃しきりにそそのかされるやうな気持になつて来た。

 では、どういふ風にそれを云つたらいいか、誰に向つてそれを云ふべきか、先づ何から云ひ出したものであらうか?
 ひとつひとつを取り上げると、さも「小さなこと」に似てゐる。そんな小さなことではないと思ふのだが、それを「大きなこと」に結びつけると、話が空漠として誰の胸にも響かなくなりさうだ。わかるものにはわかるに違ひないが、わからせたい人間がびくともしないにきまつてゐる。

 私は、いま、自分の仕事の
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