しても相当の役者に、諸君の書いたものを演らせて見る必要がある。
 処で、その「相当の役者」といふやつがゐない、と云ふんでせう。ゐませんね。これは全く悲しむべきことです。が、悲しむばかりが能ぢやない。一つ、さういふ役者を探し出したらどうです。作つたらいゝぢやありませんか。さあ、問題がやかましくなつて来た。僕一人ではどうすることも出来ない。と云つて、僕は逃げ出しはしない。諸君さへその気になれば、一緒に、大きな声を出すなり、旗竿を持つなりぐらゐのことはしますよ。
 そこで、今度は俳優志願者といふやうな人達について考へて見よう。
「おい君、役者にならないか」
「なつてどうするんだい」
「芝居をするのさ」
「どんな芝居」
「おれたちの書いた芝居さ」
「あれを演《や》ると、どういふことになるんだい」
「新時代の名優になるさ」
「そんなら、もう、誰かゞやつてる筈だよ」
 よしませう、こいつは話にならない。
「あなたは俳優にならうとお思ひになるのですね。新劇に対して何か抱負がおありですか」
「いゝえ、別に」
「それぢや困りますね。新しい作家のうちでは、誰のものをやつて見たいとお思ひです」
「さう……あの……××さんのなんかは如何でせうか」
「如何でせうかぢやない。××君のものがやつて見たいんですね」
「はあ」
「××君のなんです、作品は」
「なんでもかまひませんの。あの活動になつてをります……何んとか申しましたね、カフェーの女給が主人公で……」
「そんなのがあつたか知ら……」
「さうさう、あれは××さんぢや御座いませんでした」
 これもいけない。
「君は今迄舞台に立つたことはありますか」、
「えゝ一度、××小劇場で群集の一人になりました。それから……」
「よろしい。君は、どれくらゐ修養したらほんとの役者になれると思ひます」
「△△さん(新劇俳優の名)は半年もしたらつて云はれましたけれど、僕、それぢや駄目だと思ひます」
「ふん」
「ゴオヅン・クレイグは十年間劇場を閉鎖しろと云ひましたが、全くそれくらゐの覚悟は必要と思います」
「君は、その覚悟なんですか」
「先生たちもその覚悟でおいでゝすか」
「僕達には僕達の計画があります。ぢや、君は今までの新劇俳優を標準にして、たゞ舞台に立ちさへすればいゝ、相当な役がつきさへすればいゝと云ふんではないんですね。君は……それなら……」
「一寸お尋ねし
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