その地方に結びつく生活伝統、乃至個人の私的感情に裏づけられた談話的表現に於てのみ、その本来の面目を発揮し、事、公に亘る場合、わけても、「社会」一般に呼びかけるやうな問題の説述に当つては、その魅力が言葉の内容から遊離して、奇癖又は仮面の如く滑稽感を誘ふものである。これは、地方の方言のみがさうなのでなく、地方の人々が、標準語そのものと考へてゐる東京弁が、その方言性によつて、同様な結果を見せるのである。
文芸作品としては、阪中正夫君の『馬』だとか、私の『牛山ホテル』だとか、金子洋文君の『牝鶏』その他だとか、何れも、方言の魅力を様々な意味で利用したものであるが、井伏鱒二君に至つては、方言そのものの創作をさへ試みてゐると聞く。さう云へば、誠に文体の創造は、各作家の「個性的方言」の活用に外ならぬ。[#地付き](一九三二・六)
底本:「日本の名随筆 別巻66 方言」作品社
1996(平成8)年8月25日第1刷発行
底本の親本:「岸田國士全集 第一〇巻」新潮社
1955(昭和30)年9月発行
入力:大野 晋
校正:多羅尾伴内
2004年12月11日作成
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