文学座第一回試演に際して
岸田國士

 文学座は去年の六月以来、久保田万太郎、岩田豊雄両氏並に私の三人がよりより相談をして大体のプランを樹て、九月に、主だつた協力者の初顔合せをし、次で、内輪の結成式を挙げました。
 この劇団の組織上の特色は、われわれ三人が幹事といふ格で共同の義務を負ひつゝ、しかもそのうちの一人が、六ヶ月を任期として、交代に実際上の責任者たることを定めてあることです。
 今期の当番幹事たる私は、若干、専断的に事を運びました。
 去年の十一月、第一回公演を行ふ筈で準備が進められてゐたにも拘はらず、突然、この企劃を延期するの止むなきに至つた事情は、要するに、今日に於ても、なほ解消されてはゐないのです。友田恭助君の戦死による田村秋子さんの出演不能、他から俳優を借りて来るとすれば必ず我慢しなければならぬ稽古不足、専属として将来有望な人達はゐても、その平均年齢は、われわれが望むそれより十五以上少いといふ事実など、到底満足な公演が出来る筈はありません。たとへやれたとしても、出し物の範囲が極度に制限され、少くとも、演技力の一般的向上を計算にいれなければ、私としては、今すぐに、文学座の
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