を十分に尊重することはいふまでもない。
更に、これをどう指導するかは、いままで色々な文化団体がそれぞれ自分の専門領域にばかり閉ぢ籠つてゐて、他の領域のことはさつぱり知らない、もつとひどいのは他を排斥するといふ一種の割拠主義に陥つてゐた。そのために文化の各領域、相互の間に有機的な連絡がないために文化が跛行的にしか発展しなかつたと思ふ。
この弊害を除くために、またこれ等の文化団体を有機的に結合させて、新しい国民文化を形成するための推進的役割を受け持つやうに導かねばならぬ。この割拠主義の一例としては、いはゆる「学閥争ひ」がどんなに日本の学問の進歩を阻害し且つ詰らぬ末梢的な感情的浪費に終始したかを見れば直ぐ分ることである。
また、この機構の運営方法は、速かに政府当局と協力して確固たる文化政策を樹立してその向ふべき方向を明示すると同時に、各部門の健全なる有機的発展を期さねばならぬ。これがために文化諸領域――思想、宗教、教育、科学、技術、文芸、出版、ヂアナリズム、体育、医療施設、娯楽等――における革進的な識者を総動員して建設的な企画を作ることが重要であり、これは目下着々進捗してゐる。
第二は、上述のやうに文化の各領域の根本問題に深い省察の眼を向けながら、これと並行して現在速かにその解決を要望されてゐる重要問題、すなはち国語問題、対外文化事業及び宣伝、児童文化の問題、婦人問題、学生問題等の諸問題については、一方所管官庁の当事者と緊密な連絡を執りながら、同時に他方民間の良心的な識者の意見を十分に徹してこれを綜合統一して可及的にその解決の方向を指示する考へである。
さて、最後に最も緊急な焦眉の大問題は、いま、我々日本民族が直面してゐる非常時局、この偉大な試練期における国民士気昂揚の問題である。この問題の要点は「民衆心理の動向を適確に把握する」といふことである。今までの政治はこの点を軽視し、あるひは全然看過してゐたために、いはゆる政治といふものと国民の心理とがあまりにもかけ離れたものとなつてゐたと思はれる。
国民心理に細心の注意を配つて、その望むところ、その惧れるところ、その感情の起伏消長を適確に捉へて、これを有効に導くことが現在の政治において何よりも大切なことである。事変は国民の物質生活に可成りの貧困をもたらしてゐる。これは国民のいかなる個人も快く忍ぶところである。しかし
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング