せん。
今日まで、どちらかといへば、学問芸術は国民の一部の間にしか縁のないものであるかのやうにみられてゐましたが、これは各専門家の狭い考へからでもあり、また社会の組織や施設がその普及徹底に十分な用意を欠いてゐたためでもありますが、第一には国民全体がこれをそれほど大事なものとして要求しなかつたところに大きな原因があつたといへるのであります。
そこで、われわれはお互の生活をもつと豊かに秩序だつたものにするため、ものゝ考へ方を根本的に改める必要があります。すなはち、自分の道を自分のために、或は自分の家族だけのために切りひらいて行くのではなく、めいめいが人間として智慧を磨き、徳を修めるのは、すべてこれ国民として、この日本を強く、正しく、美しい国にするためだといふ信念に生きることであります。世の中のどんな仕事を択ぶにしても、自分の才能力量に応じた人間の磨き方を専心こゝろがけなければなりません。他民族と事をかまへるにしても、またこれと手をつなぐにしても、日本人の一人一人が、人間として心から尊敬されるやうにならなければ、国家の運命を分ち担ふ資格はないのであります。この「人間を磨く」といふことは、
前へ
次へ
全11ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング