文化の新体制
岸田國士
一
「文化」といふ言葉は今までごく手軽に使はれて来ました。しかし、果して文化とはどういふことでせう。今まで多くの人は、たゞ「文化」といふ言葉のもつ、漠然とした感じを胸に受けとつてゐただけで、文化の本当の姿を突きつめて考へてみたことはなかつたのです。これは少くとも今日まで、自覚された「文化」といふものが、国民生活の隅々に行きわたつてゐなかつたからです。近頃は殊に「文化何々」といかゞはしい物の名称にかぶせられ、お先つ走りの好みに投ずる軽薄な語感さへ生むに至りました。いくらかものゝわかつた人々の間でも、文化生活といへば、余裕のある金持階級の近代趣味を誇る生活を指すやうに考へられ、文化事業といへば、なんとなく贅沢な慈善行為や、毒にも薬にもならぬ仕事が連想されがちでありました。
しかし、正しい意味の「文化」とはさういふものではありません。もつとわれわれの身についたもので、国民全体の日常生活がいかに行はれてゐるか、その「生活の心構へと方法」とが、とりもなほさず「文化」のあらはれなのであります。
われわれが三度三度食事に使ふ茶碗と箸がすでにわれわれの文化
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