きことであります。
 翼賛会生活指導部と協力して、これは当文化部でも専門家を動員して既に研究に着手してゐるのです。

       五

 日常生活を闊達明朗ならしめることは、国民各自の努力だけでは思ふやうになりませんから、これはひとつ、文化部としてさまざまな案を提供したいと思ひます。これが指導者たる芸術家、科学者等の自発的参加も可能であらうと考へられます。
 秩序と底力のある生活が国民のものとなつて、はじめて、時代の文化は見事に花咲くのであります。
 われわれは、現に遂行しつゝある戦争といふ大事業を完成するために、われわれの既にもつてゐる文化の力をありつたけ活かして使はなければなりませんが、更に、明日のより大きな国家的役割を果すため、今日からもうその準備に取りかゝつておかなくてはなりません。それは、いふまでもなく、世界的日本の地位にふさはしい雄渾にして高雅な国民文化の素地を作りはじめることであります。
 由来わが民族の伝統は、一個の天才の創造になる文化財にはさほど恵まれてゐないかはり、各時代を通じ、歳月の鑿によつて削られ、多くの知られざる手によつて磨きあげられた、天衣無縫の名作品に満ちてゐるのであります。
 日本文化の精髄は、実にこの心と心を繋ぎ、力を力に積み重ね、「個」を「衆」のうちに没し去つた生命の泉を基調としたものだと考へられます。民族の天才は、一人一人の精神に宿らないで、むしろ、国民の歴史の一時期を生んでゐるといへるのであります。この見方からすれば、わが国の発展にとつて、専門家の孤立割拠ほど無意味なことはなく、国民の一致協力ほど必要なものはありません。
 大政翼賛会文化部は、単に政府側関係官庁と表裏一体となつてその職責を遂行するばかりでなく、文化に関する各職能部門の綜合事務局たる責任を果すつもりであります。(昭和十六年二月)



底本:「岸田國士全集25」岩波書店
   1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「生活と文化」青山出版社
   1941(昭和16)年12月20日
初出:「文化の新体制(大政翼賛叢書第六輯)」大政翼賛会宣伝部
   1940(昭和15)年12月15日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年1月20日作成
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