膳に向ふ時の礼儀作法、そのうちには、満足に食を与へられるものの感謝が籠められてゐる筈です。
 かう考へて来ると、食生活といふ問題だけでも、それは精神生活と別々に行はれるものとは決して云ひ難いのであります。
 諸外国を旅行して、いろんな人間のいろんな食事のしかたを見れば、もうそれだけで、その国の「文化」の一面を判断することができると云つても過言ではありません。料理のうまいまづいは先づ別として、また、貧富の程度による皿数の多少も問題外とします。たゞ、食事に対する観念、食器の種類、献立の巧拙、飲み食ひする一座の雰囲気などで、その人々の文化的水準乃至特徴といふものが如何に露はに示されるか、これは私自身、屡々経験したところであります。

[#7字下げ]二[#「二」は中見出し]

 こゝで「精神と技術」の問題に触れておきます。「精神」といふ言葉は、古来甚だ多く用ひられてゐますけれども、それがたゞ漠然と「こゝろ」といふ意味に使はれてゐる場合もありますし、また、可なりしばしば、「道徳」とか「意志」とか「頭脳」とか「思想」とかいふ限られた意味に使はれてゐる場合があるのです。更に、どうかすると、「気もち」
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