る節もあるくらゐで、多くは「芸能」に関することを「文化」の名で一括してしまふ非常識が平然と通用してゐるのであります。
[#7字下げ]九[#「九」は中見出し]
一二年来、全国各地方に、いはゆる「地方文化運動」といふものが起つてゐます。これも翼賛会文化部の提唱に呼応して、郷土理想化を目標とする新しい国民運動なのでありますが、これは「地方文化」といふものをわが国の伝統の基礎として、堅実に豊かに急速に発展させなければならぬ時代の要求を反映したものであります。従つて、地方生活のあらゆる分野に亘つて、その長所を伸ばし、弱点を補ひ、郷土愛の精神を拡大して、祖国への奉仕に通じさせる、戦時国民生活の強化運動とも見做さるべきものでありまして、そのために、地方のある一定地域に在住する「文化」職域の人々、並に、「文化」問題に熱意を有する人々の一致協力によつて、努めて綜合的な角度から、運動の企画と実践が行はれなければならないのであります。各々専門的な立場を固執して、独善割拠の傾向が生じたり、徒らに「文化」の意味を局限して、われのみ高しとするやうな風があつては、本末顛倒も甚だしいものであります。
「文化」とは、何をおいても、精神と精神との見事な組合せから成るものであります。争闘もまた調和のための争闘でなければなりませぬ。非常時局下の国民の一人一人は、わが国の重大な使命を自覚し、小異を捨て、大同につく覚悟を以て、何人の力をも無駄にさせず、敵は常に自己の内心にひそんでゐることを反省し、人と人との無益な対立摩擦こそ、国力を弱め、「文化」を破毀する原因であることを銘記すべきであります。文化運動に挺身すると称するものの、却つて陥りがちな「非文化的」行動を、厳に慎まなければならぬと思ふ老婆心が、私にかくの如きことを云はせるのであります。
[#7字下げ]一〇[#「一〇」は中見出し]
「文化」といふ言葉の氾濫はまことに困つたことでありますが、これは如何ともしかたがありません。
要するに、よく意味がわからぬ言葉は絶対に使はぬといふ節度が一般に保たれてゐたならば、こんな結果にはならなかつたでせう。これもまた憂ふべきわが国の現代的風景であつて、いづれは「文化」の向上によつてのみ救ひ得られる過渡的症状でありませう。
「文化」といふやうな言葉の意味内容の如きは、実際は、国民のすべてに理解されなくても、それはそれでいゝとしなければなりますまい。なぜなら、これはやゝ専門的な言葉の範囲に属してゐて、どちらかと云へば、普通の日常用語としては、意味の複雑な、しかも生硬な言葉であります。十分な訓練によつて思考能力の発達した人々の間で、正確な表現として用ひられなければ、殆どキザに聞えるほどの言葉であります。
底本:「岸田國士全集26」岩波書店
1991(平成3)年10月8日発行
底本の親本:「力としての文化――若き人々へ」河出書房
1943(昭和18)年6月20日発行
初出:「力としての文化――若き人々へ」河出書房
1943(昭和18)年6月20日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年5月21日作成
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