事を含む個人または集団の生活が先づ規律正しくなければなりません。仕事のしかた、生活のしかたが上手でなければなりません。これには技術の工夫錬磨が必要です。無駄を省き、計画的に労力と時間を使ひ、順序を正確に踏まなければなりません。適度の休養も取らなければなりません。明朗な気持を持ち続けることも大切です。
身体の健康は、平時に於ても等閑に附してはなりませんが、特に戦ふ国民として是非とも最高度に保たなければなりません。
それがためには、病気にかゝらぬ衛生上の注意以外栄養の摂取と適度の鍛錬が必要です。第一に、われわれ日本人は、もつと「健康のよろこび」についてはつきりした自覚をもたなければなりません。からだが丈夫でないことを望むものはゐない筈ですが、さうかと云つて、ほんたうに「健康」といふことを楽しい仕合せなことだといふことを身にしみて感じ、健康の上にも健康を願つてゐるものがいくたりありませう。これはつまり、国民の「健康観」といふものがしつかりできてゐない証拠で、これでは国民の体力を十分に引きあげることはできません。
従来、肉体的健康といふことは、どうかすると精神的な能力と比例しがたいやうな、俗な考へ方が世間に可なりひろがつてゐて、才子多病といふ言葉さへあるくらゐですが、これはつまり、久しい間、「文化」のかくあるべき姿を見失つた時代がつゞいたからであります。
しかし一方、健康な精神は健康な身体に宿るといふ訓へもあるとほり、逞しい精神力、殊に、頭脳と意志と感情との円満な発達と、その旺盛な活動は、どうしても、肉体が健康であることを条件としなければなりません。
それはさうと、肉体的健康は、自分にもおよそどの程度かといふことがわかり、医師の診断に従ひ、或は相当な指導者について、体質の向上、筋骨の錬磨ができますけれども、精神の健康といふことについては、第一、自分ではなんとしても正確な判断がつきかねるばかりでなく、どうかすると、人によつて見るところがまちまちであります。
現在の日本にとつて、最も重要なことは、国民の「精神的健康」を取戻すことだと思ひます。日本の国内の情勢を通じて、挙国一致、総力結集の実を挙げるために、若しいくぶんでも障碍になるものがあるとすれば、それは外でもない、古代の日本民族が世界の何れの民族よりも豊かにもつてゐた、あの健康なものの考へ方、ものの感じ方、そして
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