けてゐる」。なに、若いうちだ、何んでもやるさ。

 或る劇場の、一女優の化粧部屋――
「ちよいと、こら、あたしんとこへこんなに花環が……」
「へえ、」
「大成功ね、あんた、うれしくないの。いくつあると想つて……ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なゝ、やあ、この……九つ。」
「それでみんなか」
「まだ少いつて云ふの」
「……(独言)畜生、花屋のやつ、一つ誤魔化しやがつたな」

 国立劇場は、俳優組合と関係なしで、俳優を虐待してゐる。最初の一年は月五百法。二年たつと六百五十、これがオデオン座の相場である。コメディー・フランセエズの方は、これより鼻糞ほど余計出してゐる。尤も幹部になると、相当の収入はある。ブウルヴァアルのヴデットほどではなくとも、コメディーの一流女優などになると、自働車ぐらゐはもつてゐる。
 後援者、それは勿論あります。クレマンソオでせうね、「天下の美人」セシル・ソレル嬢に例の真珠の頸飾を買つてやつたのは。

 ヴィユウ・コロンビエ座では、俳優に給料の差をつけない方針である。均一とまでは行かないが、月々の給料としては三百法から四百法までを限度としてゐる。滅法少いが、それでな
前へ 次へ
全11ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング