ことが出来ない。
彼はポルト・リシュ乃至エドモン・セエの流れを汲む写実的心理劇作者であるが、朗らかなセンチメンタリズムに純真な詩的情味を湛へ、社交的趣味に投ずる優雅さによつて、機智の鋭鋒を包む術を心得てゐる。モオリス・ドネエの後継者として、サロンの人気を集めてゐる所以である。
一九〇九年『憑かれたもの』を公にしながら殆ど世人の注目を惹かなかつたアンリ・ルネ・ルノルマンは、『灼土』『砂塵』の二作によつて一部の批評家から認められだした。然し彼が先駆劇壇の陣頭に勇ましく乗り出したのは、戦後名舞台監督ジョルジュ・ピトエフの手によつて、『時は夢なり』及び『落伍者の群』が上演されて以来である。
その後、相次いで『熱風』『夢を啖ふもの』『赤牙山』『男とその幻』『悪の影』を公にして、一歩一歩、潜在意識の神秘境に分け入つた。
彼の新科学に対する好奇心は、異国情調の趣味と並んで、その作品を特色づけてはゐるが、何よりも彼を優れた劇作家としてゐるものは、病的とも思はれるほど鋭い感受性の気まぐれな微動が、瞑想の暗い影を伝つて、底力のある心理的旋律を奏してゐることである。
作劇のテクニックから云へば、目
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