窟は……どうせ女ぢやないか、あたしたちは……。それに、人様の御厄介になつてやしないんだからね。人殺しをした覚えもなけれや、泥棒したことだつてありやしない。お前の云ふことを聴いてると、まるで、あたしたちは罪人ぢやないか……。ああして、家のなかで働くのが……」(議場騒然)
左翼の一議員――傍聴禁止を求めます。
ミルラン君――諸君、つまり、本員も、ここを削除すべきだと思ふのであります。然るに検閲官はそれをしなかつた。「世間にいくらだつてゐる、あの亭主持ちの女と、一体どう違ふんだい……亭主を持ちながら、それが不足でいろんなことをする女とさ、……」それから、最後の一ヶ所は、プウレットが、「見ておやりよ、この色気狂ひをさ……」と云ふと、エリザが「あらさうぢやないんだよ……。だつて、もう十五日も家ん中ばかりに引つ込んでたんだもの……。たまに一日ぐらゐ、檻の外で暮したいよ……いい天気だね……ぶらぶら歩いて見たいね」すると、プウレットが「云つとくけど、うつかり、つかまつたまま眠つちまつちや駄目だよ……お神さんは、日曜ときちや、それこそ手におへないんだからね……時間に間に合ふやうに帰つといでよ……」(議場また騒然)
以上の四ヶ所を削除すれば……。
左翼の一議員――全部削除し給へ。その方がましだ。
オルヂネエル君――汚らはしい、実に汚らはしい。
ミルラン君――つまり、検閲官は、これだけの個所を修正した上、上演を許すことができたのであります。それに、何等の注意も与へないで、いきなり上演を禁止するといふことは今日までその例がないのであります。
……戯曲の他の部分については、本員は、全然上演禁止の理由を認めません。事件の行はれる場所については……。
ノエル・パルフエ君――テエマがよくないんだ。
中央の一議員――あたま[#「あたま」に傍点]もよくない。(笑声起る)
ミルラン君――テエマですか。そのことは後で述べます。
……次に人物についてであります。なるほど、人物は何れも娼婦であります。然しながら、文部大臣は、観衆たる善良な労働婦人が、これを見て嫌悪と羞恥の情を感じるよりも、富裕な、気楽な、贅沢な妾の生活を、嫉妬と羨望を以て見る方が一層危険で、且つ不道徳であるとは思はれませんか。(左翼より拍手起る。中央及び右翼これを遮らんとす)
或は事件そのものが、良くないと云はれるので
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