の細部はどうであるか、場面場面の色調はどうであるか。
女どもが登場します。互に名を呼び合ふのでありますが、その名は、「頬張月」「エリザ」「プウレット」、それから「ぶつた斬りのマリイ」
会話が交換されます。そして、話が例の兵士のことに及びます。「さうさ、あたしや好きだよ、あの男……。あの人のためになら、からだをコマ切りにされてもいいよ」エリザがかう云ふと、先程ミルラン君も引用されたとほり、今度はプウレットが、「こいつあ、をかしいや。お前がそんなだつてこた、夢にも知らなかつたね、誰かにのぼせちまうなんてさ……。だつて、今まで、お前のつていふのが一人でもゐたかい……。」(「モウそれでいい」「わかつた、わかつた」「ヨシヨシ」など呼ぶものあり)
議長――文部大臣の演説を最後まで聴かれるやうに……。
文部大臣――この句は後を読まずにおきます。先程ミルラン君が読まれましたから……。然し、ミルラン君は、その後の返答を読まれませんでした。「さうぢやないんだよ……あの人とだつて、ほかの男とだつて、あたしや、一度も……。それがだよ、あの人だけはあたしんとこへ通つて来て欲しくない、さう思ふほど、あの人が好きなんだよ……。あたしんとこなんかへ来ると、あの人が汚れるつていふ気がするの……」するとプウレットが、「ちえツ、およしつたら、くだらない理窟は……。どうせ女ぢやないか、あたしたちは……。それに、人様のお厄介になつてやしないんだからね……。人殺しをした覚えもなけれや、泥棒したことだつてありやしない……。お前の云ふことを聴いてると、まるで、あたしたちは罪人ぢやないか……。ああして、家ん中で働くのがどこが悪いのさ……。世間にいくらだつてゐる、あの亭主持ちの女と、一体どう違ふんだい……」(議場騒然)
かう騒がしくては本文を読み上げることができません。
マイエ伯爵――文部大臣は上演禁止の責任を負はれたらよからう。朗読はそれでやめられたい。(右翼より「然り然り」と叫ぶものあり)
議長――諸君は文部大臣の脚本朗読を聴かれたら如何です。
文部大臣――諸君、本大臣は……責任上、問題の性質を明かにしておく必要を認めます。
フイリポン君――その必要なし。理由は正当と認める。
議長――それでは、真相を糺さずに、事件を解決されるおつもりですか。(私語起る)それでは、少しお覚りがよすぎるでせう。(
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