れゝば入れるほど、国民全体は事実を甘くみる。そこで私は、現代風俗の問題をあげて、その非道徳性を指摘した次第である。
 私は性急に事を運ばうと考へてゐるわけではない。ある医家の初期の肺患者に云つたごとく、
「今急にどうなるといふ病気ではありませんが、たゞ、知つてゐるといふことが大事です」
 今は、誰が悪い彼が悪いと云つてゐる時期ではなく、何処に悪いところがあるかといふことをはつきり突きとめ、一国民全体が、一斉にその病根を封じてしまふこと、これはもう道徳的にいふ義務や犠牲ではない。われわれの好みに適つた伝統的な「たしなみ」である。(昭和十五年六月)



底本:「岸田國士全集24」岩波書店
   1991(平成3)年3月8日発行
底本の親本:「生活と文化」青山出版社
   1941(昭和16)年12月20日発行
初出:「文芸春秋 第十八巻第九号」
   1940(昭和15)年6月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年1月20日作成
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