風邪一束
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)風邪《かぜ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)何々|加多児《かたる》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)たま/\
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 年久しくその名を聞き、常に身辺にそれらしいものゝ影を見ながら、未だ嘗てその正体をしかと捉へることの出来ないものに、風邪《かぜ》がある。
 風邪は云ふまでもなく一種の病である。多くは咽喉が荒れ、咳が出、鼻がつまり、頭が痛み、時には熱が上り、食慾進まず、医師の手を煩はす場合が屡々ある。
 凡そ今日では、病気の数がどれくらゐ殖えたらうか。病名がきまつて、病原のわからぬものも随分あると聞いてゐるが、病原がわかつても、予防ができず、予防はできても治療できない病気の名などは、あまり耳にしたくないものである。
 さて、風邪のことになるのだが、私は、医学上、此の病気がどう取扱はれてゐるか知らないし、何々|加多児《かたる》といふのは風邪の一種だなど聞くと、もう興味索然とするので、風邪は飽くまでも風邪又は感冒なる俗名で呼ぶことにする。
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