こで、顔かたちが、整って美しいということは、俳優としてそれだけで或る特権を与えられているようであるけれども、しかしまだ、唯それだけでは、なんの役にも立たない。何故ならば、顔かたちが整って美しいということよりも、顔かたちはいわゆる普通の標準で整っているとは云えない、寧ろいろいろな欠点があるけれども、しかもなお、人を惹きつけ或は人の眼を引く一つの魅力がある。そういう場合の方が、はるかに俳優としては成功する場合が多いからです。俳優は時としてその顔かたちの所謂整った美しさによって、それだけで観衆の注意を引くし、又所謂多くの崇拝者を持つこともできるのであるが、しかし、それだけでは芸術家として伸びるものではない。顔が美し過ぎるために芸が上達しない例は今日まで俳優の歴史を通じて沢山あります。
天性の麗質も、それを更にいろいろな方法で磨かなければ、ほんとうの意味で人間としての魅力にはならないので、もしそれだけで満足するようなことがあれば、天性の麗質は宝の持ち腐れとなるばかりでなく、そういう俳優の末路は、むしろ一段と不幸なのです。そこで普通いう意味の美男、美女ではないが、しかし、どこかに魅力があるとい
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