で而も深い人間性というものを、舞台の上に表現する場合に最も役立つのです。つまり現代の演劇を作り出す上に、非常に必要な素質であります。それがなければ現代の演劇というものは生れないのです。
 第四に記憶力。
 記憶力は四番目です。これは、あるにこしたことはないという程度のものです。記憶力がゼロであるどころか、マイナスである俳優が沢山います。而もあれは一向に台詞を覚えないといわれながら、なかなか幅を利かしている人がいます。しかし、記憶力がマイナスである為に、その役者は得をしない。ゴシップの種になるというだけで、決して得をしていません。演技を完成する上で、きっと大きな損をしています。この人が記憶力があったら、もっとほかの方へ力を使って、もっと伸びるだろうということになります。
 だから、記憶力が強いということは、やはり台詞を早く覚えるというだけでなく、その他の方へ安心して力が伸ばされる。特に現代の演劇は大勢の者が協力して作り上げていく。現代の演劇で記憶力がなかったら――記憶力というのは主に台詞を覚えることですが、台詞を早く覚えないということは、他の人に非常に迷惑です。普通の記憶力、或は普通以上
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