の教養の不足から来るものであることを、特に、私は強調しておきたい。つまり本当の自信がないからです。人間としての教養は、団体の仕事、そのなかでの一つの役割というものの性質をはっきりわからせてくれます。芸術家としての教養によって、演劇或は映画というもののなかに於て俳優の占めている地位、つまりその芸術的な領域と、その俳優の個々の特性を十分に理解する能力が得られるからです。そういう教養のない場合には、逆に俳優の個々人が自分一人の利害ということしか考えられないからだと私は思います。
これで私の担当の俳優倫理という話は終ったわけでありますが、なにしろまだ日本では新らしい俳優という観念と、過去の因襲的な芝居道とが結び付いておりまして、まだ現代の理想的な俳優のタイプというものさえ、はっきりと一般の人の頭には描かれていない。ですから、俳優の倫理という問題を考えるについても、これからの新しい芝居、新しい映画、そういう世界で、もっともっと、いろいろな大事な問題がこれから提出されるだろうと思う。そういういろいろな問題を、諸君は、ただ、在来の古い考え方で以て片附けないようにして戴きたい。恐らく、もう既に私自身にさえ想像のつかないような新らしい問題、誰も今までに解決していない問題が、次ぎ次ぎに生じつつあると思います。そういう問題を、諸君は、個人個人で、更にお互の間でよく検討して、そうして今後の日本の新らしい俳優倫理というものを打ち立てることが、諸君の努力でありましょう。私はただそういう問題を考える緒口を皆さんに示したというにすぎません。
底本:「岸田國士全集25」岩波書店
1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「演劇入門」要書房
1952(昭和27)年11月5日
初出:「演劇映画研究所での講義」
1940(昭和15)年4月23日開始
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年3月1日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全27ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング