誕生日やクリスマスの時の様な大きいカステラ風の菓子だが、大抵はその家の主婦の手製といふ事になつてゐる。これを、主婦が人数だけに分けて各自に配るのであるが、この中にはたつた一つ王様の人形が入れてあり、それにぶつかつた人は、男なら王様になり、相手の女王を選ぶし、女なら王様を選ぶ権利がある。女王なり、王様なりが決まると、みんなは二人をならべて、口々に「王様お目出度う、女王様お目出たう」と祝詞を述べて囃すのである。この人形をなるたけその日の人気者、例へば、その中に恋人同志がゐるとすれば、その一方にといふ工合にうまく当る様にするのも主婦の腕前なのださうである。しかし当つた当人はてれくさいので、わざとみんなの期待通りには選ばなかつたりする。かうして、老若男女、無邪気に一日を楽しむこの日だけが、ちよつと日本の正月のカルタ会の空気などを思はせられる唯一のものだつた。



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「家庭 第三巻第一号」
   1933(昭和8)年1月1日発行
初出:「家庭 第三巻第一号」
   1933(昭和8)年1月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
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