美談附近
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)含嗽《うがひ》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)進退|谷《きは》まつて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)だん/\
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両袖献納
一
川村節子さんは、未だ嘗て、人のせぬことをしたことはなかつた。それほど、目立つことが嫌ひであり、異を樹てるといふことに趣味はなかつた。
ところが、たつた一つ、今度といふ今度は、人のせぬことを、ついしてしまつた。夫の周作が不機嫌な顔をするのも無理はない。
それは、新聞に、婦人の標準服といふものが図解入りで発表された、その日、川村節子さんは、式服を除いて、持つてゐる着物全部の両袖を切つてしまつたのである。
二
もう取り返しがつかぬ。
家にゐる時はともかく、毎日買ひ物に出歩くにも、隣組の常会へ行くのにも、また、ちよつと親戚を訪ねるのにさへも、誰も着てゐない筒袖を着なければな
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