裏へ道順を書かねばならぬ。この手間と不細工とを、もう誰もなんとも感じなくなつてゐるのであらうか。私の住ひは東京新市域のはづれである。比較的区画整理もできた場所であるけれども、公の町名だけでは、殆ど見当がつかず、二時間も捜して歩いたといふ訪問客もあつた。日本人には膨れつ面をしてゐるものが多いと、よく西洋の女などが云ふ。これで膨れつ面にならなかつたらどうかしてゐるのである。膨れつ面は、怒るにも怒れぬところから出来るのである。だから、私は、市役所に代つていつも詫びを云ふことにしてゐる。ところが、さういふ場所を択んで住ひを求める人間がゐるからわるいとも云ひ得るといふことを、近頃つくづく感じるやうになつた。云ひかへると、国民の為政者への協力が、足りなかつたのである。
さてその次に、都市の交通機関について一言する。ほかの都会のことはよく知らぬけれども、東京では、人口と面積に比して交通機関がまだ未発達であり、従つて、混み合ふ時の混み合ひ方は言語に絶してゐる。これも屡々市民の不徳として問題にされるけれども、それを調節する方法が考へられてゐるかどうか、東京市民の気質が年々兇悪になり、同胞を同胞と思はぬ
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