い」などゝあの節に合せて唄つてゐるやうな気がするのである。
これでは駄目だ。
概して都会の知識層は、かくの如く、隣人に冷かであり、また冷かならざるを得ぬ境遇におかれてゐるのである。
私はしかし、それが彼等勤人階級の特性であるとは思はぬ。なかには厭人的傾向をもつてゐるものも少くないが、それとても真に隣人と悦びを共にすることを希つてゐないわけでもない。たゞ、道が通じてゐないだけであることが、だんだん近頃わかりかけて来たのである。
だが、こゝに最も機微な関係が存在する。それは、同一町内に居住する異種階級層の相互の親睦が、いかなる契機によつて、結ばれ得るかといふ問題である。これらの階級層を大体、金利生活者、所謂勤人、手工業者乃至小売商人、筋肉労働者の四つに分けることができると思ふが、それらは、生活程度の差、生活様式の独自さ、職業的偏見、若干の利害対立、教養の相違、等々によつて自然、交渉の疎隔を来すのみならず、時には必要な協同行為をすら避ける傾向を生じてゐるのである。
この現象が、都会を個人個人の生活の場とするものから多分に隣人互助の精神を奪ひ、これを努めて郷土的なものとする工夫を無益なりと感ぜしめるのである。
都市文化の跛行性がそこから生れる。町内の政治は必然的に移住者たる勤人階級の参加を拒み、局地的な施設は主として金利生活者の選択に委ねられ、祝祭の行事は最も文化的教養の低い階級によつて多くはリードされつゝあるのである。
例へば町内に神社を建てるとする。その境内を装飾し、これを小公園とする案は先づ通つた。ところで、この相談を町内に住む建築家や造園技師にもちかけたといふ話が今まであつたらうか。
また、例へば、出征兵士の送迎をするのに、町内の人々はそれぞれ集つて趣向を凝らすが、その儀式的な形態について、それがほんとに厳粛で荘重なものであるかどうかを、いつたい誰が批判するのだらう。町の祭典の装飾について、その音楽について、行進について、余興について、嘗て一度でも、美術家や音楽家や演劇関係者が、町民の資格をもつてその企画に口を出したことがあるだらうか。私は寡聞にしてそれを知らないのであるが、どこの祭典を見ても、さういふことが行はれた形跡すらないと断言し得る。これでいゝのであらうか?
七
かういふ問題をひろへばきりがないけれども、要するに都市文化の危機は、都市そのものに対する為政者の認識と、都市住民の生活意欲の、混乱、誤謬にあると私は思ふ。云ひ換へれば、こゝにも確乎たる理想がないのである。たまたま理想を懐くものがあつても、それを追求する情熱と、これを支持する集団の力がないのである。
都市居住者の時局への積極的関心が足りないやうに云はれてゐるのは、必ずしも、彼等が一人一人国民としての自覚が足りないためではなく、主として都市そのものゝ無目標的存在に知らず識らず生活を托してゐるところに原因があるのだと思ふ。
都市生活者の共通の目標を先づ明らかにする必要がある。市会にはもつと文化的な空気を注入すべし。町会なるものゝ機能をできるだけ活溌にすべし。市民としての訓練がやがて国民として役立つといふ信念を高く掲げるべし。
都市の粛清工作は警察の手にのみ委すべきではない。殊に風紀上の些末な醜悪面を洗ひ立てたり、追ひまくつたりすることは、労して効なきものと私は思ふ。複雑微妙な都市生活の裏面では、人間が社会から離脱して、羞恥なき行為も行はれるであらう。さういふものがひよつこり街頭の明るみに姿を現はしても、そんなに驚くことはない。かういふものゝ善良な市民の上に及ぼす影響力はそれこそ知れたものである。
それよりも、やはり私は、待合とか遊廓とかいふものを一掃したい。特に、それらのものゝ在り方を現在のまゝ続けさせるといふことは、日本の都市の性格をいつまでも封建的なものから脱せしめないことになる。悪所通ひを風流とし、社交の具とするある種の観念を、われわれの頭から、即刻排除しなければならぬ。これは道徳上の問題ではなくて、まつたく趣味上の問題なのである。しかも、それがどんなに悪趣味であるかといふことすら、われわれ自身の意識の上では感じられなくなつてゐるのである。
そこで、お互の社交の形式について、考へなければならぬ問題が提出される。
都会人、特に男性間の交際は、多くは家庭外に於て行はれるが、かゝる要求に応ずる施設が、即ち単純なクラブを除けば、すべて女性のサーヴィスを附きものとする飲食店である。
多くの主婦のうちには、それが結局面倒でなくてよいとするものもあるやうである。主人も亦細君を労るつもりで、よそへ人をよぶといふ場合もあるだらう。ものゝ因果関係はなかなか断定を下しかねることがあつて、この風習は、男が求めて作つたか、女の仕向け方に
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