ても、社会に出ても、この「人と人との関係」を甚だおろそかにして来た。無駄に神経を使ひ、不必要に相手の感情を害ね、そして、お互に疲れつゝあるのである。
 こゝにも、研究すべき「生活の技術」があるといふことを、私は特に強調したい。
 われわれの祖先は、生活に立派な秩序を保つてゐた。この秩序を、今の時代に適応するやうに活かしてみたらどうであらう。「たしなみ」といふ言葉が、新鮮な内容を以て、われわれの生活のなかに蘇つて来ればいゝのである。
 生活の科学化といふ近頃の流行語は、どうかすると、生活改善の一面だけを特に主張するやうにとれて、私は少し気になる。生活の科学化と同時に、その倫理化と芸術化が並行して考へられなければ、決して、われわれが理想とする目標に到達することはできないのである。つまり、この三点から生活の新しい体制をうち立てることが、偉大な歴史を通じての日本人の「たしなみ」なのである。(昭和十六年五月)



底本:「岸田國士全集25」岩波書店
   1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「生活と文化」青山出版社
   1941(昭和16)年12月20日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年1月20日作成
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