日本に生れた以上は
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)文芸復興《ルネツサンス》

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 さあ、僕はどういふ風に云はうか?
 林君は熱情を見事に整理しつつ雄弁を振つてゐる。森山君は、縹渺たる感懐をリリカルな思考に托してゐる。何れも文学者らしい態度で堂々とこの課題を征服した。
 僕は、率直に云ふ。林君にはまだついて行けないし、森山君には少し焦らされた。
 かういふ問題は、といふよりも、「愛国心」といふやうな言葉に対しては、文学者共通の潔癖から、まづ一つのポオズを択んで物を云ふやうになる。そこが興味のあるところであらうが、出題者の意図はどこにあるにせよ、僕は、この問題を、まだ「文学者的」に取扱ふ用意ができてゐない。
 憂国精神、愛国心、祖国愛、国民の真情、日本を愛する気持、母国を懐しむ心、と、かう字引のやうに書き並べてみて、その間に可なりのニユアンスがあることはもちろん、語感の上では、殆んど右と左のやうに違ひがあることを発見する。
 殊に、最初の二つの言葉は、林君の
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