東京朝日新聞の劇評
岸田國士
近頃変つた試みだと思ふのは、東京朝日がこの春あたりから始めた劇評の形式である。これは結局、一二の人を除き、今日、専門の劇評家として、大新聞の劇評を担当させるやうな見識才能ある人物がゐない結果、苦肉の策として考へ出された「名案」であらうと思ふが、私は、可なり興味をもつて、これを迎へたものの一人である。今日までなかには、責任のがれのお座なりや、素人通の見当外れがないではないが、概して、人選にも与太つ気が少く、私などの聴きたいと思ふことを聴かして貰へるのが、一方うれしくもあり、為にもなるといふ気がするのだ。さすがに、本職と心得ない自分への遠慮と、世間への慎しみがあつて、思ひの外点の甘い傾向は共通らしいが、却つて、本職の批評家が云ひ渋るところで、ずばりと急所を突き、いつものこととして一方が触れずにおくところを、正面から打ち込んで行くといふやうな態度は、多くの場合、私など、双手を挙げて賛成したくなる。
いちいちの批評をここで取り上げる暇はないけれど、これらの人々が、殆んど例外なく、「今日の芝居」に対して、根本的に不満を漏してゐたことは、見逃すべからざることで、
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