術美の本質ではない。然し、それを全然無視し、様式化することは別として、それを「知らずして誤る」ことは、芸術美を傷つけることになる。少くとも、芸術美鑑賞の妨害になる。その例はいくらもある。実際を知らない観衆に対して、さういふ努力を費すのは無駄な気がするが、それは如何ともしかたがない。これは、外国劇及び時代劇演出者の当然払ふべき犠牲である。報いられない犠牲である。
僕は翻訳劇演出について、一つの理論をもつてゐるが、それは更めて発表の機会があるだらうと思ふ。僕は、殊に誰にでも自分の理論を強ひて首肯させようとするものではない。殊に理論は理論である。総ての理論の実行に対して、先づ自分の理論そのものに対する以上の敬意を表する。
これで、言ひたいことは略《ほゞ》云ひ尽したつもりである。これからも、築地小劇場に対して、僕は言ひたいことを悉く言ふつもりである。言ひたいことが無くなることは、果して僕にとつて幸福だらうか。
底本:「岸田國士全集19」岩波書店
1989(平成元)年12月8日発行
底本の親本:「我等の劇場」新潮社
1926(大正15)年4月24日発行
初出:「新演芸 第九巻第七号」
1924(大正13)年7月1日発行
入力:tatsuki
校正:Juki
2006年2月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング